最良の機会を得て最狂の企画が動き出す
お昼前には玄関でヤマさんの竿を見せて頂きました。ギャリソンやレナードのテーパーをもとに作られた竿はさすがの仕上がりです。これは初期の作品だから…と言って恥ずかしそうにしておられるその竿は、教えられて光を当てて顔を近づけて凝視してやっとアラが分かるというレベル。どこが失敗なんだろうというレベルです。
何本もの竿を出して眺めているうちに、雨がやんだタイミングを見計らって、アトリエの前の道路で先生のウィンストンテーパーの竿を振らせて頂きました。
この竿を振ったらみんなコレ作る!って言ったんですよ、と笑う先生。竿をお借りして振らせてもらうとしなやかに曲がってラインが気持ちよく飛んでいく竿でした。いいなぁ、コレ。僕も欲しくなっちゃいました。次作ろうかな?
さて竿の試し振りもそこそこにお昼ゴハンを頂きます。いつもいつも美味しい食事をありがとうございます。
この日の昼食はウドン。たっぷりの麺を器に入れて頂きました。寒い中夢中になって竿を振っていたので、腹の中から暖まるものは効きますねぇ。
昼食の後は、バインディングに移ります。三角柱に切り出した竹片を組み合わせてヒモで縛る作業です。
手で6本の竹を組み合わせるのですが、大きく撓んだ曲がりの付いている竹はなかなか言うことを聞いてくれません。見かねた先生が手早く束ねて、バインディングの見本を見せてくれます。
バインダーは各ビルダーそれぞれ工夫をしているようです。有名なのはギャリソンのバインダー。ディッカーソンはモーターを使って電動化したそうですが、フル先生のバインダーはシンプルにして明解(使うところを見れば一目瞭然。写真だけでは分からないかも?)です。
6片組み合わせた竹の端を結束ワイヤーで止めたら、ヒートンの中に差し込みます。
竹片の端をまき結びで結んで、ライターで焙って繋いで輪にしたシリコンロープ(船釣り用の尻手スパイラルチューブの素材みたいなヤツ)を一回まわして掛けます。
右手でひっぱりながら左手でテンションを掛けて緩めてやると、ヒートンの中でブランクがくるくる回ってバインディングの糸が縛ってゆく…と。ああ!もどかしい!文字で説明するのは無理!見れば分かる!見なきゃ分からん!フル先生のお許しが出たら動画で撮りたい!
火入れもまたビルダー各自の苦労と経験の詰まった工程です。竹は180℃で変性するので、それ以下の温度では火入れにならないと言われています。しかし温度を上げすぎると焦げてしまうし、何分火入れをすればいいのかは、作業環境の気温・湿度によっても大きく左右されます。
さらには火入れのためのオーブンも創意工夫されています。電熱器でオーブンを自作する人もいれば、カセットコンロやキャンピングストーブに金属パイプをおいてオーブンとする人、パイプにヒートガンで熱風を送り込む人もいれば、オーブントースターの横っ腹に穴を空けて奥様に怒られる人もいるとか。
いずれにしても設備で最も大掛かりになってしまうのが火入れでしょう。この作業スペースが確保できないで、バンブーロッドビルディングを諦めている人が僕の他にも大勢居ると思います。
プレーニングフォームと火入れの作業スペース確保が都市に住む道楽者の悩みのタネであるのは間違いないところでしょう。何せ8フィート2ピースなら120cm+αのブランクです。
そう考えると、このスクールで工程を教わったからと言ってすぐにビルダー稼業などはできません。
今住んでいる家に作業スペースがあるのか?設備投資はできるのか?売れなかったら回収できないので売り先が確保できるのか?今のお仕事はどうするのか?作業時間を確保できるのか?お金を得る以上アフターサービスにも対応できるのか?家族の理解は得られるのか?騒音が出ても近所迷惑にならないのか?
ざっと考えても解決しなければいけない問題は山積です。生業とするには今の生活を投げ打ってライフスタイルを変えなければならないという人がほとんどでしょう。僕だってもとよりそんな気さらさらありません。
物を作るのがスキとかプロが嫌がって作らないような竿が欲しいという僕だからこそ、このスクールがどれだけ有難いものか痛感しています。
さて、火入れは一般的には油分と水分を抜いて10%ほど重量が減ればOKだとか。しかし充分に乾燥された竹では10%も落ちませんしね。結構実際のところは経験と勘というところらしいです。
オーブンに入れて待つとキッチンタイマーが仕上がりを教えてくれます。これまでで一番楽な工程。というか他の工程は想像以上に体力勝負でした。バンブーロッドビルディングをなめたらあきませんね…。
少し色が濃くなった箇所ができてしまいましたが、ヤングのフレイム仕上げに比べれば可愛いもんです。
この後、バインディングの糸を外して、スクレッピング(竹の表皮剥がし)に取り掛かりましたが、途中で晩御飯の時間がきてしまいました。
というか美味しいおでんをご馳走になった(いつもありがとうございます)後は先生・ヤマさんとの歓談に夢中になり、全然作業しなかったのです。またもや…あぁ反省。
アトリエを後にする頃は22時になろうとしている頃でした。毎回遅くまで居ついてしまって申し訳ありません。スクレッピングの工程は次回に掲載します。
その7へ続く
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